バロックの彫刻家ベルニーニの超絶技巧

4月は世界最大級のインテリア展示会ミラノサローネがあるため、インテリア業界の人々が一斉にミラノへ向かうのですが、私は今年はローマ&フィレンツェへ行ってきました。どちらも大学卒業旅行以来ぶりです。

今回の旅のテーマは「古代・ルネサンス・バロックの芸術を学ぶ」

イタリアの2000年以上の歴史は西洋の建築・装飾芸術に多大な影響を与えています。
現在のインテリア商材も西洋のデザインセオリーも、歴史の積み重ねと知の集積から生まれています。
その原点を学びたいと思いました。


ローマは4月末に関わらず30度近い気温が続き、欧州の観光客で大混雑。(アジア人旅行者は少なめ)
私は予約可能な場所はほぼ全て日本でGetYourGuideで事前予約していきました。予約なしだとチケット購入や入場で数時間並びます。コロナ終息後に一気に欧州の人が旅行を再開している感じですね。

バロックの巨匠ベルニーニの神業に感動

今回の旅でひときわ印象に残ったのが、ローマのボルゲーゼ美術館で目にしたベルニーニの彫刻です。

ボルゲーゼ美術館はローマの名門貴族ボルゲーゼ家の夏の離宮であり、芸術コレクションを収め展示する館として1600年代に建てられたもの。広大な庭園は緑豊かなボルゲーゼ公園としてローマ市民に愛されています。

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美術館は2階が改装(修復中)のため1階しか入れませんでしたがそれでも見ごたえ十分。
1階に2階の作品の一部を集めて展示していた模様です。

美術館という名称ですが、日本にあるような美術館とは質が全然違います。
さすが貴族の元離宮だけあり、内装だけでも見ごたえ十分。
各部屋の床には様々な大理石がアートのように敷き詰められ、壁や天井は見事に装飾されており、360度密度が濃い。

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全部屋の天井には壮大なフレスコ画が描かれています。
侘び寂びの日本建築を見慣れている日本人には、空白がなさ過ぎて呼吸困難になりそうなほど。
これが石造りの建物を基本とする西洋の表現方法なのですね。

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ボルゲーゼ美術館の目玉はベルニーニの彫刻

「ベルニーニはローマのために生まれ、ローマはベルニーニのためにつくられた」
と賞賛された、バロックの巨匠ベルニーニ。
彫刻家であり建築家・画家です。
特に印象に残った2作品をご紹介します。

プロセルピナの略奪

1621年頃、ベルニーニ23歳の作品。
冥界の神プルートーが春の女神プロセルピナを我が物として連れ去ろうとするシーンを描いたものです。英語作品名は“The Rape of Proserpina”。

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写真だと伝わりにくいですが…
ご覧ください、この作品の臨場感。
女神が苦しみ・悲しみで身体をひねって逃げようとしている様子。

そして特に注目点が、プルートーの指が女神の腿に食い込んでいる部分。硬い大理石がまるで柔らかい女性の肌のように見えます。女神の目元には涙も。

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あまりの臨場感に、作品を目の前に鳥肌が立ちました。

アポロンとダフネ

こちらもベルニーニ20代の作品。
古代の詩人オウィディウスの「変身物語」のクライマックスシーン。

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恋心と性愛の神(エロス)により、“相手に恋する金の矢”を射られたアポロンが、ダプネに求愛し続けますが、“相手を疎む矢”を射られたダプネが拒絶し続け…追われ、ついに力尽きたダプネが、父ペネイオスに自らの姿を変えてくれるように願い、月桂樹に姿を変えるシーンです。

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髪が風になびき、ダフネの指先や脚が月桂樹に変わっていく…
まるで風音や葉音が聞こえてきそうな、繊細で臨場感あふれる表現。
大理石がレースのようです!

ご紹介した「プロセルピナの略奪」も「アポロンとダフネ」も、女神が男神に追われて逃げ惑い苦しむシーンを作品にしています。
女性が男性に苦しめられる題材、イタリア芸術では結構多いです。
表現がリアルなために、見ていて心が締め付けられるのですが、そのような感情を飛び越えて、ベルニーニの技術と表現力に感嘆しました。
400年以上たっても人々に強い感動と影響を与え続けるってすごいことですね。

硬い素材を柔らかく見せる表現力

もう一つ、印象に残った作品をご紹介します。
ベルニーニの200年後の1800年代に、彫刻家アントニオ・カノーヴァにより製作された作品 「Venus Victrix」。

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ご覧ください、この柔らかそうなマットレスやカーテン。
思わず手で触れたくなります。柔らかそうに見えますが全て硬い大理石で作られています。

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この柔らかそうな石を見たときに思い出したのが、2年前のロンドンのPAD(世界最高峰の技術とデザインを取り入れた超ラグジュアリーなアート・家具の展示会)
そこでは石・金属・樹脂など硬い素材で柔らかさを表現したアートのような家具を、様々なギャラリーで目にしました。

以下は2022年のPADで撮影した写真。
先程の彫刻と同様に大理石で作られたクッション。

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樹脂や金属で表現したテーブルや椅子。

石、金属、樹脂など硬い素材で柔らかな表現を試みた作品です。
400年前のローマの芸術家たちに通じる表現方法だと思いました。


聖テレジアの法悦

さて、話をバロック時代のローマに戻します。
今日のブログで紹介する最後の作品です。
ローマのサンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会にあるベルニーニの「聖テレジアの法悦」。
映画『天使と悪魔』で目にしてから、ずっと実物を見たいと思っていました。

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修道女テレジアが天使と出会った神秘体験をテーマにした作品。
バロック時代には、修道女や修道士が神秘体験をし、それを教会や民衆に語り伝えることが多々あったようです。聖テレジアの乱れる衣装のヒダや恍惚とした表情がリアルで、背景の装飾とあいまって大変劇的な作品でした。

この教会には、 他にも彫刻や作品がたくさんあります。大理石をふんだんに使用した教会内部の装飾も見事です。
てっきり「聖テレジアの法悦」がメインに置かれていると思っていたのですが、あくまで「たくさんある装飾のひとつ」という位置づけ。

バロック時代の教会の装飾芸術のレベルに舌を巻きます。
そしてローマにはこのような教会が、コンビニの数ほどあるのですから…ローマ恐るべし。

次回もまたローマ旅で印象に残ったことをご紹介します。
なお、ボルゲーゼ美術館はハイシーズンは混むため、日本での事前予約をおすすめします。GetYourGuideが便利です。教会は礼拝中で無ければ、無料で見学可能。

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EMI YAMAGUCHI
EY DESIGN
インテリアデザイナー山口恵実

英国で習得したデザインセオリーと日本の美意識を融合し、首都圏を中心に新築・リノベーションのインテリアデザインを行う。
好きなもの:歴史&アート巡りの旅

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